| ものごころがつく前まで、私は鎌倉に住んでいた。 ものごころがつく前なので,正確には,住んでいたらしい、ということになるのだが、確かにアルバムの中には、黄色いスモックに白い毛糸の帽子を被った小さな私が居て、母はやたら嬉しそうに
「これは、鎌倉で雪が降ったときの・・」などと言う。 私の知らない、私の記憶が、母の中には満ちている。 黄色いスモックの子供が、急に知らない人のように思えて、慌ててアルバムをめくれば、
次のページの彼女は、おもちゃの長靴に無理やり片足を突っ込み、見事にコケていた・・。 お菓子を食べてしまった後の、 空っぽの、赤いプラスチックの長靴。
笑いたいような泣きたいような、ヘンな顔をして。 昔から、転ぶのだけは、うまい。 作者 |