2009年10月9日(金)-18日(日)

Theatre company shelf volume10

『私たち死んだものが目覚めたら | When We Dead Awaken』

作:ヘンリック・イプセン

構成・演出:矢野靖人

「外国に長く居すぎたんだね、きっと。なんだかよそ者みたいになってしまった——自分の故郷で。」

<劇的エピローグ>という副題のついたこの作品は、文字通りイプセン最後の作品となった。主人公である彫刻家ルーベックが吐露する自己断罪と新生への希求は、そのまま作者自身のものとして我々に迫ってくる。

戯曲の真価を舞台で発揮するのは非常に困難とされてきた本作——写実主義から象徴主義へと移行するイプセン最晩年の戯曲を以て、近代を超え、現代を照射する作品に再構成します。ご期待下さい。



2008年 1月「悲劇、断章 — Fragment/Greek Tragedy」@名古屋・七ツ寺共同スタジオ
photo:Hisao Kamae



2008年 7月「ちいさなエイヨルフ — Little Eyolf」@atelier SENTIO
photo:Mari Harada


主たるモチーフについての覚え書き/「私たち死んだものが目覚めたら」 演出ノート

マイア   この静かなこと、聞いてよ。
ルーベック 聞こえるのかい、それが。
マイア   ええ、聞こえるわよ、本当に。
ルーベック そうだね。静かさは——確かに聞こえるものだ。

ルーベック 汽車で北へ北へと走ってきた夜を思い出すね——小さな駅に着くたびに、すべてがしんとするのに気がついていた——。静かさが聞こえた——それで国境にさしかかっているんだとわかった。いよいよ故郷だ。列車は小さな駅のたびごとに停車する——乗り降りする客は一人もいないのに。

マイア   どうして停まるの。何もないのに。

ルーベック さあ。降りる人もいなければ乗る人もいない。だのに汽車はやっぱりいつまでも、いつまでも停車している。どの駅でも駅員が二人プラットホームを行くのが聞こえた——
一人は手に龕燈をもって——ぼそぼそ低い響きのない声で、夜のしじまを破る。

——イプセンがこの戯曲に書いたモチーフのひとつ、「静かさが聞こえる」とは、人間の生の時間からの決定的な疎外を表象しているように思えます。

そしてそれは、生きるということ(と死ぬということ)の本質に関わる。

意識するとせざるとに関わらず、人は過ぎていく時と常に対峙せざるを得ない。向き合うことを恐れ、見ないふりをしてみても時間は確実に過ぎ去っていく。と言ってまっすぐに向き合ってみてもそこには深い裂け目があるのみで、

その不安を解消するためにか人は限られた生に意味を見出そうとする。芸術家が後の世に作品を残そうとすることや、あるいはそもそも人が子を生み育てるということも、そんなことは言い古されたことかもしれないけれど、ひょっとして単にこの生の時間からの疎外に対する、それに起因する不安から逃れるためのただの方便に過ぎないのではないか。

彫刻家であるルーベックには子供がいない。その昔彼のモデルであった女性——イレーネにもいない。

実際に子供のいる夫婦だったらおそらく何とはなしに日常に紛れていただろうに、ルーベックとイレーネの二人は、芸術作品を作るということで子どもに代わるような貴いものを成したように思えた。しかしそんな二人だからこそ、すれ違い、お互いから目を逸らした隙にふと、恐ろしい日常の裂け目を直視してしまったのではないか。

僕はこの戯曲を通じてそういうことが、そのような生の本来的な不条理が剥き出しになるような作品を作りたいと思った。

きっと真っ白な、生と死を見つめる美しく儚い作品になると思います。

ご期待下さい。

演出/矢野靖人

プロフィール 演出家・矢野靖人の主宰するシアターカンパニー。"shelf" はbook shelf(本棚)の意。何もない世界の両端を区切ることによって生まれる空間、 沢山のテキストが堆積・混在する書架をモチーフに活動を展開。
近年は俳優の「語り」に力点をおきつつ、古典テキストを主な題材として舞台作品を制作・上演する作業を続けている。同時代に対する鋭敏な認識、空間・時間に対する美的感覚と、俳優の静かな佇まいの中からエネルギーを発散させる演技方法とを結合、舞台上に鮮やかなビジョンを造形し、見応えのあるドラマを創造する手腕が高く評価されている。

代表作に、「R.U.R. a second presentation」(作/カレル・チャペック)、「構成・イプセン —Composition / Ibsen」(作/ヘンリック・イプセン)、「悲劇、断章 — Fragment / Greek Tragedy」(作/エウリピデス)等。

2008年8月、「Little Eyolf—ちいさなエイヨルフ—」利賀特設野外劇場公演にて、主演俳優の川渕優子が利賀演劇人コンクール2008<最優秀演劇人賞>を、10月には同作品名古屋公演にて、名古屋市民芸術祭2008<審査委員特別賞>を受賞。

劇団WEBサイト
http://theatre-shelf.org/
出演 川渕優子 阿部一徳 片岡佐知子 山田宏平(山の手事情社) 大川みな子 秋葉洋志 櫻井晋
スタッフ 音響:荒木まや (Stage Office) 照明:則武鶴代 衣装:竹内陽子
制作助手:岩井晶子、蓮見のりこ 宣伝美術:オクマタモツ 舞台監督:小野八着(JetStream)
翻訳:毛利三彌 協力:ク・ナウカ オフィス、山の手事情社、(有)アップタウンプロダクション
制作協力(名古屋):加藤智宏(office Perky pat)
日時

10月9日(金)-18日(日)

9日   19:30
10日 14:00 19:30
11日 14:00 19:30
12日   19:30
13日   19:30★
14日 休演日
15日   19:30★
16日   19:30
17日 14:00 19:30
18日 14:00  

受付開始=開演30分前

開場=開演15分前


★の回は終演後、ポスト・パフォーマンス・トークを実施します。
13日(火)19:30 宮城聰氏(SPAC芸術総監督)
15日(木)19:30 横山義志氏(SPAC文芸部)
※ポスト・パフォーマンス・トークは半券をお持ちの方であれば何方でもご入場頂けます。

会場

アトリエ春風舎

東京都板橋区向原2-22-17 すぺいすしょう向原B1
TEL:03-3957-5099(公演中のみ)

料金 前売3,000円
当日3,500円
ペアチケット5,500円
学割2,000円(前売のみ、要学生証)

アカデミックチケット※ 1,000円
※座席に空きがある限り、学生対象の格安当日券をご用意致します。
(証明書必須。専門学校生・演劇の養成所に在籍の方も対象となります。)

*未就学児入場不可
*本公演は芸術地域通貨ARTS(アーツ)をご利用いただけます。
(ARTSとは、桜美林大学内の演劇施設で施行されている地域通貨です。1ARTS=1円で使用できます。)
チケット
予約開始
2009年9月1日(火)
チケット
取り扱い

お問い合わせ
shelf
090-6139-9578 info@theatre-shelf.org
オンラインチケット予約 http://theatre-shelf.org/

・お名前/ご希望の日時/券種/枚数/お電話番号をお願いいたします。折り返しこちらよりご連絡を差し上げます。
・ご予約は観劇日の前日まで随時受け付けます

企画制作:shelf
主催:shelf
提携:七ツ寺共同スタジオ(名古屋公演)、アトリエ劇研(京都公演)
協力:ク・ナウカ オフィス、山の手事情社、(有)アップタウンプロダクション