アゴラ劇場の支援会員制度も六年目を迎え、制度としては、定着、安定の時期を迎えつつあります。しかしながら私たちは、日本にはまだなじみの薄いこの制度を、より発展させ、もっと深く根付かせていきたいと考えています。
アメリカの多くの劇場では、支援会員は、座席の位置までが決まっており、その権利は相続の対象にさえなるそうです。たとえば、「A-15」という席が、その劇場でもっとも観やすい席だとすると、その席の権利を持っている会員が亡くなった場合、遺族に、その権利を継承するかが問われます。継承すれば、そのまま故人の妻や子どもがその席に座ります。継承しない場合には、隣の席の権利者に声がかかり、翌年度から、少しずつ席が詰められていきます。こういった制度を長年続けていくことによって、劇場は町の社交場となっていくのです。
ただ、これだけでは、とりようによっては鼻持ちならないスノッブな雰囲気と受けとられるかもしれません。しかし、そこがアメリカという国の面白いところで、こういった厳然とした格差社会と共に、それを補う機能をも劇場は持っています。
毎回、会員招待日に町の名士たちが劇場に来られるとは限りません。では、その空いた席はどうなるか。その席のチケットは、地元の大学などで学ぶ芸術家のタマゴたちに寄付されます。「このチケットは、○○さんからの寄付によるものです」という一通の手紙と共に、オペラやコンサートの最上級席のチケットが、貧乏学生の元に届きます。
私たちは、このような重層性のある芸術へのアプローチを用意するのも、劇場の仕事だと考えています。
2008年度も、充実のラインナップを揃えました。ぜひ、一人でも多くの方に、劇場に足をお運びいただければと願っています。
芸術監督 平田オリザ