「演劇は興味があるけど、何を見ていいのか分からない」「舞台は当たりはずれが大きいように思う。映画ならつまらなければ出て行けるけど・・・」
演劇を見慣れない方から、そういった声をよく聞きます。たしかに、安くはないお金を払って、つまらない芝居を見れば、頭に来ることもあるでしょう。
しかし、例えば美術館なら、何百枚という絵の中から、1枚でも2枚でも心に残る絵があれば、あなたは満足して帰りませんか?演劇も本来、劇場のプログラム全体を評価していただき、今年は何勝何敗だったというように楽しんでいただくべきものだと私たちは考えています。いや、たとえ、1勝15敗でも、その一つの作品が、人生を変えるような出会いなら、そこに劇場の価値があるのだと思います。
こまばアゴラ劇場の支援会員制度を利用すれば、1回の観劇は千円から2千円、1本1本がつまらなくても、あきらめのつく金額です。また、たくさんの作品を観ていただき、それを比較することによって、一見つまらない、自分には縁のない作品だと思えていた舞台にも、新しい魅力が発見できるようになるかもしれません。
若い作家の作品や、先進的な舞台は、万人を満足させるものは少ないと思います。現代演劇の特徴の1つが、観客の受け取り方の多様性にあると言っても過言ではありません。そこで私たちは、その現代演劇の多様性を確保するバラエティ豊かなラインナップを組むことに重点を置き、色々なスタイルの演劇に触れ、観客の心に残る舞台を探していただくような劇場の形を提案してきました。
昨年度は、アゴラ劇場を拠点として活動を続けてきた前田司郎さんの岸田國士戯曲賞受賞をはじめとして、こまばアゴラ劇場と青年団の関連団体が国内外で高い評価を得た充実した一年となりました。また、青年団本体も、フランス最大の芸術祭であるフェスティバルドートンヌへの招待参加、世界初のロボット演劇の始動、子ども向けの演劇の制作と、国際性、先進性、地域性などを満足させる最先端の働きを示してきたと自負しています。
今後も、こまばアゴラ劇場と劇団青年団は、世界の演劇界の最前線と、駒場商店街とをつないで、多様な活動をしていきたいと考えています。ぜひ、1人でも多くの方に、この活動を支援していただければと存じます。
また今年度からは、さらに幅広い割引制度を用意しました。今後、日本経済はより一層厳しい局面を迎え、経済格差による社会的断絶が多発することが予想されます。このときこそ、芸術文化は大きな力を発揮すると、私たちは信じています。
劇場は、文化による社会包摂(人が社会と繋がりを持って生きていくために、弱者を孤立させず社会参加を促すこと)の拠点です。こまばアゴラ劇場の支援会員制度は、トータルな意味で、次世代に向けての政策提言と実践を兼ねた試みです。ぜひ、多くの方のご理解、ご賛同をお願いいたします。
芸術監督 平田オリザ