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2023年度ラインナップ総評

更新日:2022.11.14

2022年10月13日の情報公開を以って、2023年度こまばアゴラ劇場ラインナップが出揃いました。

新型コロナウイルス感染症の影響も、世間的には一時より落ち着きを取り戻しつつあるようです。こまばアゴラ劇場としても、実施できた公演数や劇場利用カンパニー募集への応募数の増加などから、少しずつ舞台芸術界が回復の兆しを見せていることを実感しています。まだまだこれまで通りとはいきませんが、2022年度はいまだ公演中止することなく、すべての上演を迎えることができているのは、カンパニーの皆さまをはじめ、ご来場いただいている皆さまの、感染症対策へのご理解とご協力があってのことです。この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。

こうした情勢の変化を受け、今年度よりキャッチコピーを「ここに劇場がある」から、コロナ禍以前の「劇場に通ってみませんか?」へと戻しました。新型コロナウイルスの猛威を経験した今、かつてと全く同じように、劇場へ通うことは難しいでしょう。しかし、劇場、そして演劇はそうした社会の変に対応して、そのあり方を少しづつ変容させてきました。新たな時代に、劇場はどのようにして人と人とを繋ぐ役割を保ち続けることができるのか。日々試行錯誤を続けて参りますので、どうぞ見守っていただけますと幸いです。

昨年度から新たな取り組みとしてはじめた総評を今年度も作成することにしました。選定を通じて見えてきた現在の舞台芸術界の一端を、劇場の視点から言語化することで、ひとつの応答とできれば幸いです。

2023年度のラインナップは、[春夏][秋冬]の2期に分けて公募する形で劇場利用カンパニーを募りました。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、21年度、22年度は通年での募集へと変更したため、2期での募集は3年ぶりとなりました。それぞれ約一か月の募集期間を設け、芸術総監督の平田オリザと9名のプログラムオフィサーによる、こまばアゴラ劇場での複数回にわたる選定会議を経て、決定いたしました。

こまばアゴラ劇場では広く表現者に開かれた劇場を目指し、作品そのものに期待されるクオリティーのほかには企画にかかわる仔細な応募条件や評価軸を定めていません。2023年度のラインナップも、劇場に通う習慣を取り戻すきっかけとなるような、様々な上演が集まりました。

 

選定プロセスについて

ラインナップ選定は、芸術総監督・平田オリザとこまばアゴラ劇場制作、青年団制作から組織されたプログラムオフィサーにより行われます。

選定プロセスは以下の通りです。

1.プログラムオフィサーによる応募書類の読み込み
2.プログラムオフィサーによるプレ会議
3.芸術総監督・平田オリザとプログラムオフィサーによるラインナップ選定会議


1.プログラムオフィサーによる応募書類の読み込み

カンパニーのみなさまから送られてきた、企画内容、活動実績、今後の計画目標などの応募資料をプログラムオフィサーが読み込み、各自で要点をまとめておきます。

プログラムオフィサーの中に観劇した者のいないカンパニーについては、添付資料として送られてきた過去公演の記録映像、戯曲、企画書などを拝見し、カンパニーの活動をできる限り把握できるよう努めます。

 

2.プログラムオフィサーによるプレ会議

平田とのラインナップ選定会議の前に、プログラムオフィサーのみでプレ会議を行います。各自がまとめてきた要点をもとに、それぞれの意見や観劇したプログラムオフィサーがいればその観劇体験を共有します。

 

3.芸術総監督・平田オリザとプログラムオフィサーによる本会議

プレ会議でプログラムオフィサーの意見を取りまとめた上で、平田を交えラインナップ選定会議を行います。プログラムオフィサーの意見と平田の意見を突き合わせつつ、その年の採択カンパニーを決定します。その後、各カンパニーの利用希望を突き合わせながら、年間スケジュールを確定させます。

 

◇ラインナップ選定のポイント

こまばアゴラ劇場は広く表現者に開かれた劇場を目指し、作品そのものに期待されるクオリティーのほかには企画に関わる応募条件を定めていません。そのため公演実績が豊富なベテランのカンパニーも、まだ公演実績のない新規立ち上げカンパニーも、できる限りフラットな視点で選定を進めます。

ラインナップ選定では、公演の企画内容を最も重視しつつ、劇場の年間プログラムとしてのバランスも考えながら、総合的に判断します。
具体的には以下のような視点で採択カンパニーを検討します。

・企画の新規性・独自性
・企画の実現性
・カンパニーの将来性・注目度

上述した通り、年間スケジュールを決めるのは、採択カンパニーが決まったあとですので、利用希望日程からカンパニーの選定を進めることはありません。

 

総評

昨年度は、長期化が予想される新型コロナウイルスへの向き合い方を、世の中全体が探りつつある中で、まだまだ先行きの見えない不安定な情勢が続いていました。そうした情勢を反映して、劇場利用カンパニー募集への応募数も、2020年度同様に芳しいものではありませんでした。

しかし、今年度は昨年度比85%増と、応募数に大きな伸びが見られました。この増加の裏に、不安定な情勢への向き合い方を少しづつ定めていきつつあるカンパニーの皆さまの姿を想像します。今年度の募集形態を、通年募集から2020年度以前の2期での募集へと変更したのも、こうした空気の変化を反映してのことです。

不安定な情勢の中では、公演内容に何らかの変更があったとしても、企画の主旨がブレることのない、洗練された創作の必要性がより一層求められます。今年度はそういった現状にはっきり答える企画が増えてきました。今までにないコラボレーションや満を持した野心的な挑戦も見られます。反面、企画内容の練られていないカンパニーも同程度あり、企画を練る力の格差が顕著となりました。

利用期間についても、1週間程度での利用が多かった昨年度に比べ、2週間以上のロングラン公演を希望するカンパニーが増えました。年間のおよそ半数のカンパニーが2週間以上の利用となり、演目数は少なくなりますが、長期間の劇場利用によって創作が一段と深まっていくことが期待されます。

近年、当劇場の劇場利用カンパニー募集では、募集と合わせて表現者の育成を行う取り組みを行っています。今年度も募集期間中にオンライン劇場下見を実施。また応募企画をより掘り下げたい方へ向けて、応募予定内容について事前に相談できる個別面談を設定し、応募を考えるカンパニーへのサポートを行いました。

個別面談が結果に直結するものではありませんが、劇場制作と表現者が直接話す機会は限られており、この機会によって、評価する/評価される関係だけではない、積極的な企画を考える力を蓄える場になるのではないかと考えています。どうぞご検討ください。

新型コロナウイルスが現れてからのここ数年は、舞台芸術業界にとって厳しい日々が続いています。そんな中でも新たな表現が生まれ、出会う場としての機能を継続・維持していくべく、劇場運営を続けて参りました。今もこうして運営を続けていくことができているのは、活動を継続している表現者の皆さま、劇場に足を運んでくださる観客の皆さまのお力添えあってこそです。
引き続きどうぞこまばアゴラ劇場の歩みにお立ち会いいただけますと幸いです。

こまばアゴラ劇場制作
黒澤多生
中條玲
蜂巣もも
半澤裕彦
日和下駄

 

 

付録:データ

前回の総評のデータと比較して、コロナ禍3年目の今年にどんな変化が現れたのか検証します。

 

<応募数>

2020→2021年度 75件→45件 40%減
2021→2022年度 45件→41件 9%減
2022→2023年度 41件→76件 85%増

今年度は、2020年度以前に行っていた【春夏】【秋冬】の2期に分けての募集形態に戻しました。その結果、【春夏】では31件、【秋冬】では45件もの応募があり、コロナ禍以前の応募数と同水準の件数となりました。【秋冬】の募集では、【春夏】募集時に応募していたカンパニーが再度応募していたため重複はありますが、昨年度の通年募集を上回る件数となりました。

募集の条件などは昨年度から大きく変わっていないため、コロナ禍においての演劇様式の定着、また社会全体のイベントに対する意識の変化によって、企画立案のハードルが下がったことが要因と考えられます。

 

<地域と首都圏(東京・埼玉・神奈川・千葉)の割合>

2020年度・・・首都圏内:60件(約80%) 地域:15件(約20%)
2021年度・・・首都圏内:31件(約70%) 地域:14件(約30%)
2022年度・・・首都圏内:22件(約54%) 地域:19件(約46%)
2023年度・・・首都圏内:51件(約67%) 地域:25件(約33%)

今年度の地域のカンパニーからの応募件数は、コロナ禍以前より大幅に増加しました。応募内容を拝見すると、劇場内で無料で宿泊ができるなどの受け入れ体制があることや、同じ地域で他のカンパニーが公演を実施した前例があることなどが、応募への後押しとなっているようです。


<主催と提携/一般の希望比率>

2020年度 主催:32件(約43%) 提携:25件(約33%) 一般:18件(約24%)
2021年度 主催:18件(約40%) 提携:27件(約60%)
2022年度 主催:22件(約60%) 一般:15件(約40%)
2023年度 主催:47件(約62%) 一般:29件(約38%)

昨年度と主催/一般の希望の比率はほぼ変わっておらず、主催を希望するカンパニーが60%程となりました。客席数の制限は撤廃されましたが、コロナ禍における特別な補助金・助成金が今後も継続するのかが不透明なためと思われます。一方で、コロナ禍でカンパニーが補助金・助成金への申請する機会も増えたためか、一般貸出での希望をするカンパニーの件数そのものは増加しています。

 

<2022年度応募カンパニーの観劇有無>

※プログラムオフィサー1名以上が応募カンパニーを観劇したことがあるかどうか

【2022年度】
全体 ある:31件(75.6%)ない:10件(24.4%)
採択カンパニー ある:23件(79.3%) ない:6件(20.7%)
不採択カンパニー ある:8件(66.3%) ない:4件(33.3%)
【2023年度】
全体 ある:50件(66%)ない:26件(34%)
採択カンパニー ある:24件(85.7%) ない:4件(14.3%)
不採択カンパニー ある:26件(52%) ない:24件(48%)

昨年度に引き続き、プログラムオフィサーの観劇有無のアンケートを実施しました。

観劇したことないカンパニーが大幅に増えましたが、特に地域のカンパニーからの応募が増加し、それに付随して観劇をしたことがないカンパニーも増えたものとみられます。アンケート結果から、首都圏を拠点とする劇場が、地域の演劇シーンをどのように把握していくかが課題としてあがりました。

また、採択カンパニーの観劇有無の影響がより浮き彫りになる結果となりました。あくまで企画書の内容から選定を行なっていますが、観劇の有無と採択/不採択には相関があると考えられます。

 

<ラインナップ選定に関するお問い合わせ>
こまばアゴラ劇場 / (有)アゴラ企画 ラインナップ担当
〒153-0041 目黒区駒場1-11-13
TEL : 03-3467-2743
FAX : 03-3467-2984